転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


284 ルディーン君を遠くから眺める者たち



「どうしたの? ルディーン」

 隣でお祈りしてた僕が急に周りをきょろきょろ見だしたもんだから、レーア姉ちゃんがびっくりして聞いてきたんだ。

 だからね、お祈りしてたら誰かが僕の事じっと見てる気がしたんだよって教えてあげたんだけど、そしたらそんなの当り前じゃないかって言われちゃったんだ。

「後ろには人がいっぱい居るもの。私たちが祭壇でお祈りしてたら、みんながこっちを見るのなんて、当たり前じゃない」

 レーア姉ちゃんにそう言われて後ろを見てみたんだけど、そしたらそこにはいっぱい人がいて、その人たちがみんな柵の向こうから僕たちを見てたんだよね。

「そっか。こんなにいっぱい人がいるんだもん。僕をじっと見てる人だっているよね」

「ルディーンは私たちの中で一番小さいもの。そりゃあ、見る人もいるわよ。ほら、解ったのなら早くお祈りをすましちゃいなさい。案内の神官さんが待ってるわよ」

「うん! 解ったよ、レーア姉ちゃん」

 誰に見られてたのかが解ってホッとした僕は、もう一度絨毯におひざをついて、ビシュナ様の聖印に向かって今度こそ最後まできちんとお祈りをしたんだ。


 ■


「あれがランバー大司教が言っていた少年か?」

「ええ。間違いないと思います」

 イーノックカウ大神殿にある大聖堂。その内部を見下ろせる場所では司教を表す衣を着た老人が若い神官を伴って、聖印に祈りをささげる一人の少年を見下ろしていた。

「見たところ、ただの小さな男の子にしか見えないのだがなぁ」

「はい。ですが、彼は冒険者ギルドにて、僕に侵された多くの冒険者をキュアポイズンで解毒したとの報告が上がってきております」

 その話はわしも聞いておる。

 じゃが、眼下の少年を見ていると、その話が本当にあった事なのかと思えてくる。

 わしの目に映るあの少年は、多段無邪気な子供にしか見えないのだから。

「それが事実ならばじゃ、あの少年はすでに神官のジョブを身に着けているだけでなく、そのレベルも3レベルに達しているという事になる。だが、そんな事が本当にあると思うか?」

「普通ではありえないとしか申し上げようがありません」

 隣の若者の言葉に、わしは黙ってうなずく。

 確かに通常ではそのようなレベルに、あのような小さな子供が到達する事などありえないのじゃ。


 神官のジョブというものは、努力さえすれば誰しもが発現するものではない。

 たとえば優秀な師匠の下について魔力の修業をしたとしても、発現するのは見習い神官と言う一般職のみ。

 そこから昇華して神官と言うジョブを得るには、その者の素養が無くてはいくら長い時間をかけても到達する事は出来ぬと言われておる。

 だからこそ神殿では孤児の中からその素養をかけらでも持つ者が見つかれば、多くの金と労力をかけて立派な神官になるよう育てていくのだからな。

 そしてその者たちとて、すぐに神官のジョブを得られるわけではない。

 と言うのも神官と言うジョブは戦士などのように魔物を倒して経験を積むものではなく、人を癒したり、けがれたものを浄化したりすることによって成長して行くものだからなのじゃ。

 その為、一般職の見習い神官が発現して治癒魔法が使えるようになった後、多くの人々を癒し続ける事によって徐々に経験を積むことによってでしか神官のジョブを得られぬし、その後もさらに長い時間をかけてレベルを上げていかねばならぬ。

 実際わしが知っておる神官の中で、一番若くしてキュア・ポイズンが使えるようになった者でも、確か24か5歳くらいだったはず。

 それも、その者は4歳の頃にその素養を見出され、帝都の中央大神殿で教育を受けた結果、若くしてそれほどの実力を身に着けたと聞く。

 逆から言うと神殿がそれほど力を入れたとしても、その年齢が限界と言えるじゃろう。

「本来であれば、わしが自ら出向いてでも、あの少年を神殿に迎えたいのだが」

 そんな我々の常識を打ち壊す存在であるあの少年を、神殿がほおっておくはずがない。

 だからこそ、冒険者ギルドで起こった事件のあらましが上がってきた時には神殿に迎え入れようと言う動きもあった。

 だが、それはかなわぬ夢となる。

「ランバー様のお言葉だけならばなんとかなりましょうが……」

「うむ。フランセン伯爵家の庇護下にあるとなれば、いかに神殿と言えどそう簡単に手を出すわけにはいかぬからな」

 どうやらあの少年はランバー殿だけでなくこのイーノックカウの先々代領主、ランヴァルト・ラル・ロルフ・フランセン様の庇護下にあるらしいのじゃ。

 それもフラン栓様自らが手出し無用としたためた文を、ランバー殿がこの大神殿に届けたのだから流石に無視する事も出来ぬ。

「おまけに、あの少年は冒険者、錬金術、商業、3つのギルドを通して、この街の孤児院に多額の寄付までしておると言う話じゃからな。ここでもし、わしらが無理に動けば、神殿の信用も地に落ちるやんもしれん」

「はい。その額は他の寄付をして頂いている方々とは比べ物にならないと聞いております」

 この話はわしも聞いておる。

 最初は錬金術ギルドのギルドマスターからあの少年の父親に、このイーノックカウにある大商会や貴族の中でも最高額となる金貨80枚を毎月寄付してほしいと要請したにもかかわらず、実際はそれをはるかに超える金貨400枚を寄付すると言う返事が返ってきたそうだ。

 だが、流石にそれほどの額は受け取れないという事で今は他の倍、金貨160枚を毎月寄付していただいてると言う。

「枢機卿にと押された事があるランバー様と伯爵家の庇護のもとにあり、各ギルドからの信用も厚い。その上町に住む孤児たちの恩人でもある、か。へたに手を出したら、間違いなく悪の烙印が押されるな」

「はい。残念ながら」

 あの才能はこのような辺境の都市ではなく、帝都のような神殿の中枢でこそ発揮されるはずだと言うのに。

 司教の衣をまとう老人は小さくため息をついた後、眼下の少年を眺めるのをやめて若い神官を伴ってその場を後にしたのだった。


 ■


「おや、なかなか珍しい子がおるのぉ」

「珍しいですか?」

「うむ。ほらこの子じゃよ」

「……確かに。本来ならつく事ができないはずのジョブについていますね」

「そうじゃろう? ふむ、この子はどうやらグランリルの村の子のようじゃが……まさかおぬしが何か手を貸したわけではなかろうな?」

「まさか。確かにあの村の神殿は戦いの髪を祭ってはおりますが、だからと言ってその様な事をするはずがありません」

「そう必死にならずとも、わしとて本気で言っておるわけではないから安心せい」

「それならば良いのですが……」

「それにこの子はまだ小さいのに、かなり育っておるのぉ。なかなか将来有望じゃな。うむ、一度近くで顔を見てくるかのぉ」

「おやめください。あのような場にお出でになられては、それこそ大変な騒ぎになってしまいます」

「そうか? ただ顔を見に行くだけじゃぞ?」

「それでもです。解る物には解ってしまうものなのですから」

「そうか、ならば今回はあきらめるとしようか。残念じゃのぉ」

 ルディーン君を遠くから見つめていた者たちは、こうして立ち去るのだった。



 会話だけで出演した方々ですが、将来的に出番があるのかなぁ? 一応ネタとしてはあるんですが、一度出すと正直、後が大変そうなんですよね。

 さて、本編中で、神官のジョブは人をいやしたりけがれたものを浄化するしか経験を積む事ができないと書かれていますが、これは間違いです。

 ではなぜこのような勘違いが起こったのかと言うと、一般職である見習い神官がこの条件に当てはまるからなんですよね。

 神殿では素養がある者を鍛えて見習い神官を発現させ、その後はいろいろなところに派遣して数多くの治癒をさせる事によって神官と言うジョブを持つ者を得ます。

 そして、そこまでにはかなりの労力がかかっているので、当然そんな神官のジョブを持つ者に狩りなどさせることはあり得ないので、このような勘違いをしていると言うわけです。


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